嗚呼なんて、美しい。
君のその瞳も唇も鼻も肌も髪も手も足も、君を創る全てが。
いっそのこと永遠を捕まえてしまいたいと思うよ。
悲しいほどに。








ラプンツェルにキスをしてV







夕暮れで紅く染まる頃、カガリは森の方をぼーっと眺めていた。
あの夜から毎晩アスランは塔の上に登りに来る。
そして朝日が昇り、魔女が起きる前に彼は自分の城へと帰っていった。
それは二人の暗黙の了解。


昼の間、カガリは長い時間を塔の上で一人過ごす。
部屋に出口なんてない。
ただあるのは、外の世界と繋ぐ小さな窓。
それを幼い日は寂しいなどと思ってみたが、今じゃそんな感覚もどこかへ置いてきたままだった。


それなのに、運命とは恐ろしきもの。
アスランと出会ってから、彼が自分の隣にいないというだけでやりきれない想いになる。
一人でいる寂しさなんて、とうの昔に感じなくなっていたのに。
誰かを待つ時間というのは果てしないほど長く、そして愛おしいほど残酷であった。



そうしてカガリは、ダメだ、こんなの。何度も首を振る。
このままじゃ心臓がねじれてちぎれてしまいそうだ、と。




でも、この想いを止めようとすればするほど溢れ出てきてしまった。
そうして、それは何故?と自分に問えば、わかりたくもないのに気付いてしまう。
あの夜から、アスランの真っ直ぐに走る甘い激情が自分の心に染み込んで消せないでいた。
きっと、自分の心はもう既に自分のものではない。
あいつが自分の心を持っていってしまったのだ、とカガリは瞼の裏で感じてしまった。








闇夜に月が浮かぶ頃。
カガリの胸は更に落ち着きがなった。
これはいつものこと。
胸がざわついて、喜びと不安が入り混じる不思議な感覚。



「カガリよ、カガリ、おまえの髪をたらしておくれ。」




塔の下からかかる呼び声。
カガリが金の髪を垂らすと、それを伝ってアスランは登ってきた。
 


アスランは小窓に辿り付くと、窓の枠に片足だけを乗せ両腕をカガリに伸ばしてくる。
カガリは、それが自分を呼んでいるのだと気付き、その腕に誘われるように近付くと、腕をグイッと引っ張られ、アスランに力一杯抱きしめられてしまった。
そして、カガリはこの腕に抱かれ、その温もりに安心している自分に驚いてしまう。


アスランは甘い吐息を漏らすようにカガリの耳元で囁いた。



「………会いたかった」




それは切なさに甘く擦れた声。
カガリはその言葉だけで、心臓がぎゅっと萎縮し、アスランの胸のあたりに額を押し付けた。
彼の情熱が自分を包み込み、嬉しいはずなのに何故か切なくなり、それはカガリの胸を痛ませる。
愛おしさが増す度に、苦しくなる。
(まさか、これが恋だなんて。 )




アスランの薄い唇がカガリを魅了し、そこから紡がれる甘い囁きにカガリは心震えた。
アスランが自分の髪に触れ、そんな小さな仕草もカガリには甘い響きをもたらす。



箱を開くと日常で忘れかけていた感情が溢れ出るばかりであった。
寂しさも、愛も、どちらかを切り離すことなんてできない。
きっと愛情が孤独を生むのだと、カガリは思い知らされてしまう。



アスランはカガリを抱きしめる腕を緩めると、カガリの唇を指先で撫でる。
カガリも戸惑いながらも震える瞳でアスランを見つめると、アスランはカガリに悲しそうに微笑んだ。



「自分が目を放した瞬間に、君はいなくなってしまう気がするよ。」



何故、そんな悲しそうに笑うのだろうか。
カガリはアスランに何か安心させる言葉を掛けなくてはと思ったが、言葉が縺れてしまう。
好きとか、愛してるの言葉じゃこの気持ちは収まりきれない。
ただただアスランに与えられる甘い吐息も、熱い肌の温度も受け止めたい。



アスランがカガリの顎をクイッと上に向かせると、琥珀の瞳に碧い瞳を映し出される。
カガリはアスランに何か言わなければと考え込んでいたが、彼の口付けで言葉を飲み込んでしまう。


カガリの胸は高鳴り、自分の鼓動が早くなるのを感じた。


唇に心臓でもあるのだろうか。
アスランの唇は優しい。
あまりにも優しく触れるから涙が込み上げ、カガリはアスランの口付けを受け入れながら静かに涙を流した。



アスランは唇を離すと、息のかかる距離でカガリを呼ぶ。



「……カガリ。」



アスランは切なそうに目を細める。
そして、恋に犯された唇が誘うように呟いた。



「君が、欲しい。」



熱に浮かされたように、アスランはカガリを見つめる。
アスランの言葉に、カガリはまるい瞳を更に大きく見開いた。



闇夜に浮かぶ月のように輝く長い金の髪。
その艶やかな髪が指先に絡みつく。



アスランは自分の気持ちを染み込ませるように愛しい人の髪に口付けた。






これが、最後に触れるカガリの長い髪だとは知らずに。



























































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