「自分の子供なら、自然と可愛いって思うよ。」


とキラは言った。
それにアスランだって案外いいパパになりそうじゃない。と続けて微笑む。


「そうだな。」


カガリは、短く答えた。
それが叶わない夢なのだと知りながら。








依存した温もりを手放せないまま
僕らは大人になった








カガリがバスタブの蛇口を捻ってお湯を溜める様子を、アスランは壁に寄りかかりながら静かに見つめていた。 


「一緒に入る?」  


アスランはカガリを見下ろして、低い声で訊ねる。 
それは何処か遊びに誘うときのような、穏やかで丁寧な口調だった。  


「好きにしろ。」  


カガリがそっけなく答えると、アスランは甘く微笑む。 
そのままアスランがカガリの背後から抱きしめると、カガリもこの先何が起こるのかをわかっていたように静かに体を委ねる。 

こんな空間には似合わないような、お日様の匂いをしたカガリのブロンドの髪にアスランは顔を埋めて、深く呼吸をする。  


「カガリの匂い、すき。」  


「ん。」  


背後から聞こえるアスランの声に、カガリは溜め息が漏れるような声で返した。 
アスランは、カガリが着ていたグリーンのニットワンピを脱がす。
ずり落とすように脱がされたワンピスースは、水に濡れたタイルの上に落ちて、水を含んだ毛糸の部分だけが色濃くなった。

そしてアスランは「濡れてる…。」と、意味あり気に囁く。
振り向けば、アスランの顔。
少し伸びた前髪の隙間から、翡翠の瞳が熱に浮かされたようにカガリを見つめていた。
吸い込まれるように唇を重ねて、カガリは体の奥がじゅんと熟しすぎた果実のように垂れるのがわかる。
 

カガリはふらりと壁にもたれかかると、間違えて背後のシャワーのボタンを背中で押してしまう。
回らない思考で、あぁまずい。と思うのと同時に天井から水が流れ落ちてきた。


 「……あーあ」


やっちゃったな。と、濡れた髪を色っぽく掻き揚げて、アスランは意地悪そうな瞳でカガリを見つめる。
水が染みこんだ白いシャツは、アスランの裸体にぴったりとくっついて薄く肌の色が浮いていた。
アスランはそれを柔らかに脱ぎ捨てると、背中から腰に掛けての綺麗なラインをした体が現す。
次に履いていたデニムにも手を掛けようとし、一瞬躊躇すると困ったように笑った。

 
「これ脱ぐの大変そうだな。」


水を含んだデニムは、青さがより一層濃くなり、重く沈んだ色をしている。
カガリは一旦シャワーを止めようとアスランに背中を向けるが、アスランがその手を掴んで振り向かした。
 

「まずは、こっちだろ。」


アスランは、カガリの手を自分のデニムに持ってこさせると、不敵に笑う。


「脱がせてよ、カガリ。」


アスランの甘いお願いに、カガリは睨む。


「自分で脱げるだろ。」


「脱げない。」


駄々っ子のように口答えするアスランに、カガリは溜め息は吐いた。
チャックに手を掛けて、金具を持つ指先が下がる様子をアスランはじっと見つめてる。

 
「好きだよ、カガリ。」


頭上から零れ落ちる、甘い声。
カガリは何も答えずに、アスランのジーンズを脱がした。

そして、そういえば…と思い出す。
戦時中も、プライベートルーに備え付けられてあった狭いユニットバスで、立ちながら二人でシャワーを浴び、湯気で曇る鏡の前でキスをしたのをカガリは思い出した。

あの頃は、ただただ四六時中好きな人に触れていたいと思った。
そこには、およそ想像していた恋や愛の甘さではなく、今よりもっと余裕もなく相手を求め合っていて、殺伐とした雰囲気があった。

そうして、何て自分は怖いことをしていたのかと思う。
それが他愛無い触れ合いの仮面を被った、本能だということに今更気付く。
あの頃の自分は、無意識にアスランならいいと思ったのだ。
この行為の行く末に、リクスも伴うということが待っていようと、相手がアスランならば、と。


それなのに、今になって子供を生むことが怖いと思う。
今の自分達には子供を育てる環境はきちんと用意できる年齢になり、周囲もそれを手助けする準備は出来ていた。
愛が冷めたとは思わない。だからこそ何故、と思う。

ゆっくりと、見上げればアスランがこちらを見下ろしていた。
濡れた髪の雫が、カガリの頬に落ちる。
アスランはそっと口を開いた。



「どうしてこう思うのかわからない。」



だけど、聞いて欲しい。とアスランは切なそうな瞳でカガリを見つめる。



「君になら殺されてもいいって、たまに本気で思うんだよ。」



切実に、そう告げるアスランにカガリは黙り込んだ。



「……馬鹿な奴だな。」



カガリは擦れた声で小さく呟いた。
だけどそれがアスランの耳に届いたかはわからない。
バスタブに溢れて零れ落ちるお湯に、カガリは蛇口を捻った。
愛している、だけど子供を生めない理由が、ここにある。


















依存した温もりを手放せないまま僕らは大人になった。
























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