恋に落ちるきっかけは些細なことだった。
きっと他人から見ればどうってことないこと。
それでも、彼の手に掛かれば私は簡単に足を掬われ溺れていってしまう。
こんなにも苦しいのに、この手を振りどけないのは何故。
高鳴る胸を押さえ付け、
蓋をすれば、それは蓋の壁を突っ切って溢れ出してしまう。

じっと見つめる暗く冷たい彼の瞳。
それは深い海のような色をした翡翠の瞳だった。










きみのくちづけが遠い














「カガリ」

彼の低い声が甘くカガリを誘う。
カガリの耳元にかかる甘い吐息が、彼女の判断を鈍くさせる。

「・・・や・・・やめろ。」

お願い、これ以上私をダメな女にしないで。
今ならまだ大丈夫だ。
私はまだ拒絶できる。

カガリは精一杯の抵抗をしてみるが、高鳴る胸の音や真っ赤な顔は彼に隠すことができなかった。
それを見透かすように、アスランの唇は綺麗な弧を描く。


「知ってる?カガリの口から出る『いいえ』は否定じゃないんだよ。」


その言葉にカガリが目を大きく開くと、その隙にアスランはカガリの唇にキスをした。
今ならまだ拒絶できる・・・・はずだった。
自分の唇に触れる、愛しい人の唇。
ただそれだけで、カガリは拒むことが出来なくなった。
カガリはぎこちなくアスランに抱きしめられながら、しっとりとした唇をアスランが優しく包み込み、アスランのされるがままになってしまう。
不意にカガリが唇の位置を軽くずらすと、アスランはその唇を追いかけて、カガリの上唇を軽く含み、そして少し離してから、下唇を小鳥のように啄ばむ。
その繰り返しを数回して、次にアスランが自分の上唇を自分の唇に含むことを予想し、カガリは無意識に上唇と下唇の間隔を少し開けた。
その瞬間、自分の口内は違う感覚になって、カガリは目を見開く。
アスランの舌がカガリの中に入ってきた。



「ん・・・・・やぁ・・・・」

カガリは不意に甘い声を上げてしまう。
アスランはそれを聞いても、ペースを変えずにカガリの口内を犯した。
それは淡々と機械的に。


カガリは思う。


こんなはずではなかった、と。
しかし、自分が望んでいたものもこれだった。


あぁ、恋をするとどうして人は矛盾した行動ばかり取ってしまうのだろうか。


知ってるんだ。
アスランにとってこのキスは何気ないものだってことを。


それでも拒めないのは愛してしまったせいかな。














きみのくちづけが遠い






















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