薔薇の棘は僕の心を甘く刺す
「あぁ、もう本当に嫌!」
フレイはラインストーンが飾られた細く長い爪を悔しそうに見ていた。
「フレイ、どうしたの?」
フレイはツンとした表情でキラを睨んだ。
「体育のバスケで爪が折れちゃったのよ!折角この前サロンでネイルを新調したばかりだったのに!」
それを聞いて、アメジストの瞳は驚いたように見開いた。
「へぇ。珍しいね。フレイがちゃんと体育に出るなんて。」
「カガリに無理矢理引っ張られたのよ!私だってあんな野蛮なスポーツなんて参加したくなかったわ!」
そう言ってフレイは、ぷいっと顔を逸らした。
キラはフレイの言葉に出てきた、一人の少女の名前をぽつり呟いた。
「カガリ・・・。」
フレイはその名前に反応して、キラの顔をじっと見つめる。
それは甘い視線ではなく、薔薇の棘のような険しい視線だった。
「カガリはやめときなさい。」
「え?」
キラは何のことだろう、というようにぽかんとしていた。
「カガリには付き合ってる人がいるの。だから好きになっても無駄よ。」
キラはどうしていいかわからず、肩を竦めた。
「フレイ、違うよ。僕はカガリのこと好きじゃない。顔も知らない。」
キラが困ったように笑うと、フレイの顔はかっと熱くなった。
フレイの唇はツンと尖る。
キラはそれを面白そうにククッと喉を動かして笑う。
「な、何よ!だってキラがカガリの名前を呟くから・・・・・」
「それで妬いちゃった?」
フレイの顔は沸騰しそうなほど赤くなったけど、それは照れて赤くなるような可愛らしいものではないことをキラは知っていた。
フレイの灰色の瞳が強くこっちを睨んでいる。
キラはフレイのその挑発してくるような瞳が好きだと思った。
キラは黙って、フレイの瞳を見つめる。
フレイはその視線に気付き、居心地悪さを感じた。
「フレイのそういう目、僕は好きだよ。」
「……あっそ。」
この男の考えていることが、さっぱりわからない。
私以外の女の子にも平気で手を出すくせに、いつだってその目に汚れはない。
だから嫌いなのよ。
キラはフレイの返事を聞くと、ニコリと微笑んだ。
そして、自然の動きでフレイの唇にキスをした。
フレイはそれを黙って受け入れる。
数秒して唇が離れ、静かな空気が流れた。フレイは相変わらずキラを睨んでいたけれど、キラに先程の笑みはなかった。
「ところで、そのカガリって子は誰と付き合ってるの?」
フレイは驚いたように目を見開いた。
「知らないの?」
「え?」
その反応に、フレイの真っ赤なルージュが塗られた唇が、妖艶に微笑んだのをキラは見た。
「アスラン・ザラよ。」
薔薇の棘は僕の心を甘く刺す