「カガリだ!」

「え?」

「お前は!」

「・・・・・アスラン。」


女神を見たきがした。
優しく光照らす、太陽の女神。








  












出会いはあまりに唐突だった。
それは運命と呼ぶには少し安っぽすぎる。


ブロンドの髪
少し日に焼けた肌
はちみつ色の瞳
すっと伸びた手足

黙っていれば可愛い女だと思うが………
 




「くっそー!閉じこめられた!」


女は、端正な顔つきには似合わない言葉遣いをした。

彼女は天井からの脱出でも試みようと、元気よくピョンピョンと跳び、天井に向かって高くジャンプした。
そのときスカートの裾がフワリフワリと浮遊するのを、彼女は気付いていないんだろうか。
俺は何も言わず、煙草に火を点けた。


「お、お前!こんな状態で何のんきに煙草なんて吸ってるんだよ!」

 
「こんな状態だから吸ってるんだ。お前も吸うか?少しは気分が落ち着くぞ。」


俺は吸い指しの煙草を口にくわえながら、新しい煙草を彼女に渡した。


「吸うわけないだろ!」


彼女は顔を真っ赤にして、煙草を俺に突き返した。


「そうか。残念だ。」


俺はポケットに煙草をしまう。


「お前、ここどこかわかってるのか!学校のエレベーターの中だぞ!こんな場所で吸うなんてお前は非常識だ!しかもまだ未成年じゃないか!」


「それなら君も非常識だな。」
 

「え?」
 

「さっきから飛びはねて・・・・スカートの中が見えてる。」


女はきゃっ、と可愛らしい声を出してその場に蹲った。
男っぽい言葉遣いをしてもそんな声も出せるのか、と俺は少し感心してしまう。


「見たのか!」


「白だった。」


「違う!水色だ!」


と言ってから、彼女は慌てて自分の口を抑えた。


「正直者だな。」


俺はクスリと笑う。
女は悔しそうに俺を睨んだ。その目は少し涙目だった。


「そ、それより、お前!このままでいいのか!このままじゃ一生エレベーターに閉じ込められたままだぞ!」
 

「一生は大袈裟だろ。」


「そんなのわからないだろ!」
 

「大丈夫。ただの故障だ。その内教師が気付く。」


カガリの焦りとは裏腹に、アスランは落ち着いていた。
二人の温度差が、カガリをますます不機嫌にさせる。


カガリは、アスランから離れた位置にどすんと大きな音を立てて座った。
アスランはそれを確認すると、タバコの火を携帯灰皿で消した。
カガリは体育座りをし、顔を膝の中に埋めている。


二人は黙り込んだ。
狭い空間で、耳の奥が研ぎ覚ますほどの沈黙が流れる。
それでも会話が楽しめるような相手ではなさそうだということも、カガリにはわかっていた。
カガリは膝から顔を上げる。
目の前の男は壁に頭を預けて、瞳を閉じていた。
こくりと、たまに頭がすべる。


「寝ちゃう気
かよ・・・!」


カガリは呆然とした。男を起こそうと男に近付き、顔を覗いた。
そして、カガリは心臓が跳ねた。


男のくせに透き通るほどの白い肌
細く繊細なまつ毛
すっと伸びた高い鼻
色素が薄い唇


胸が高鳴る。
整いすぎているその寝顔に、思わず見惚れてしまった。
カガリは時が止まったように見つめた。


「・・・んっ。」


カガリの視線に気付き、男のまつ毛が揺れる。
少しづつ瞼が開かれていくのと、深い深海のような色をした翡翠の瞳と目が合ってしまう。
カガリはびっくりして、その場から飛び跳ねた。


「・・・・まだエレベーターは止まったままなのか。」


アスランは寝ぼけているのか、カガリと目が合ったことを気にしていないようだった。
カガリはホッとし、そのことに感謝した。


「あぁ、まだだ。」
 

「そろそろ教師達が気付いてもいいと思うんだが・・・・。」


そう言って、アスランはポケットから携帯を取り出して時間を確認した。
そして、カガリは何か思いついたように大きな声を出した。


「携帯!」


「は?」


「そうだ!携帯があったんだ!」


そして、いそいそとカガリはブレザーのポケットから携帯を取り出した。


「いきなりどうしたんだ?」


「携帯で助けを呼ぶんだよ!あぁ、何でもっと早く気付かなかったんだろう。」


アスランは未だ寝ぼけているのか、カガリの行動をぼっーとした瞳で見つめていた。
カガリは携帯のアドレス帳から友人の名前を検索し、すぐに電話を掛けた。
コールの鳴る音がもどかしい。


「あ、もしもし。ミリィか?」


『カガリ!どこにいるのよ!』


「それがエレベーターに閉じ込められちゃって・・・・」
 

『えぇ!大丈夫なの?』
 

「多分、ただの故障だと思うんだけど・・・・だから先生に言って、助けてもらえないかな?」
 

『わかったわ。先生呼んでくるから、ちょっと待っててね。』


そう言って、電話はすぐに切れた。


「どうだった?」
 

「友達が今から先生呼んで来てくれるって。」


カガリはアスランに向かって満面の笑みを浮かべた。
会ってから初めて見た笑顔だった。
彼女はずっと自分に対して怒ったり、嫌な顔しかしなかったので(自分が怒らせたという自覚はない)、アスランは少し驚いた。


「・・・・嬉しそうだな。」
 

「え?当たり前だろ。お前は嬉しくないのか?」 


「嬉しくない。」


そう言って、アスランは立ち上がって天井に向かって伸びをした。
カガリはそんなアスランを不思議そうな顔で見つめた。


「お前って変わってるな。」
 

「え?」
 

「嬉しくないなら、このままエレベーターに住み着けばいいじゃないか。」


そう言って、カガリは悪戯っぽい笑顔を向けた。
アスランは、表情を変えずにカガリを見つめる。
カガリはその顔にドキリとした。


「ただもう少し君と一緒にいたいと思った
だけだ。」
 

「・・・・・え?」


アスランの瞳は目の前のカガリを捉えている。
翡翠の瞳に映る自分。
そしてアスランがまた何かを言おうと口を開きかけたとき、エレベーターの外からざわついた人の声が聞こえた。
アスランとカガリがドアに振り向くと、ドアがようやく開いた。
エレベーターの外には、教師とカガリの友人が立っていた。


「カガリ!」  

「ミリィ! 」


カガリは一目散にドアの外に飛び出し、助けてくれた友人に飛びついた。
後からゆっくりアスランも外に出た。


「坊主、大丈夫か?」


助けにきた体育教師のフラガ先生がアスランに声を掛けた。


「ご迷惑掛けてすいませんでした。」


「いや、気にすることない。エレベーターの調子が悪かったみたいだ。今度ちゃんと点検してもらわないといけないな。」


アスランは、友人に抱きついているカガリを横目に見た。
嬉しそうに笑っていた。
アスランがそのままその場で去ろうとすると、カガリに声を掛けられた。


「カガリだ!」


「え?」


「お前は!」


「・・・・アスラン。」


その名前を聞くと、彼女はふっと微笑み、その場から駆け出して行ってしまった。

アスランの背筋がゾクリと甘く震えた。
何かが動き出そうとしている。





甘い嫉妬 のはじまりが・・・・。














鍵のない部屋に閉じこめて







 








 








 















thanks/ 浴びる野

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