目が覚めて。
カーテンの隙間から光が差し、カガリは寝ぼけた眼と戦いながら自然と枕元に置いてある携帯に手を伸ばす。
…またか。
携帯片手にカガリは溜め息を吐く。
アスランの性格からしてメールなんて来るわけがないと、何度も自分に言い聞かしてきた。
それでも、毎朝携帯を確認してしまう行動は、やっぱり自分はどこか無意識で期待しているのかもしれない。
こんな進歩のない自分に、呆れを通り越して悲しくなってくる。
カガリはもう一度深い溜め息を吐いた。
短い不在は恋を活気づけるが、長い不在は恋をほろぼす。
「待ってるだけじゃなくて、たまには自分からメールしてみれば?」
「うーん、でも……。」
ミリアリアのアドバイスに、カガリは素直に頷けなかった。
アスランとの距離を埋めようとすると、また一歩距離が開き、それはもう本能的に追いかければ追い掛けるほど、彼はするすると掌から逃げていくのを知っていて。
そんな友人の心情を察するかのようにミリアリアが心配そうに口を挟む。
「カガリは、アスランの彼女なんだから遠慮なんてすることないわよ。相手に合わせたり、無理をしたって長続きはしないわ。」
「…うん。」
ミリアリアの意見は正しい。
カガリも、お互いに自然体で相手に接することが出来たら良いと思っている。
それなのにアスランを前にすると、何故か言葉が縺れて、自分の心を伝える前に相手の機嫌ばかり伺ってしまう。
「カガリらしくないわね。」
「え?」
横でずっと黙って聞いていたフレイが口を開く。
フレイは机に肩肘を突いて、教室の窓から登下校する生徒が溢れ出す校庭を見下ろしていた。
「カガリは頭で考えるより、もっと体当たりでぶつかっていくタイプだと思ったけど。」
「あー昔はそうだったかも……?…いや、今でもそうだけど………あ、あれ?どっちだ……?」
混乱しているカガリを見て、フレイは安心したようにふっと微笑む。
自分がそうだったように、カガリの気持ちが手に取るようにフレイにはわかった。
フレイにとって、それは懐かしい思い出にある共感ではなく、後悔と懺悔に繰り返される空しい思い出なのだけど。
「カガリでも、恋すれば普通なのね。」
その言葉にカガリは、頬をぶうと膨らます。
「ふ、普通って!それじゃ、いつも変な奴みたいじゃないか!」
「そういう意味じゃないわよ。」
「じゃあ、どういう意味だっていうんだよ!」
じっと見つめてくるカガリから、フレイは視線を逸らす。
こういうのは昔の自分と重なる。浅はかな落ち度だ。
「……恋って病気みたいじゃない。」
「……びょーき?」
「恋すると人は平常心を失うわ。……だから、カガリみたいに、自分を持ってる真っ直ぐなタイプでも恋に溺れることってあるのねって思ったのよ。」
珍しく真面目に語るフレイを見て、カガリは先程の勢いも消え失せる。
「フレイも……今好きな人いるんだな?」
「いないわ。」
「でも……」
カガリは、フレイの答えに納得がいかず、もごもごと口を動かした。
「私、嫌いなの。そういうものに振り回されるのって。」
フレイはそれ以上、何も言わなかった。
恋が楽しいだけのものだと夢見れるほど、自分は純粋じゃないのだとフレイは思う。
あの幼い日、自分のテリトリーに土足で入ってくる恋愛感情は、気まぐれに囁く愛の言葉を信じながら、それに振り回される自分が惨めにも思った。
彼を愛する気持ちを持ちながら、もう彼を信じることは出来ない自分だからこそ、カガリに同情し、そしてほんの少し、羨ましくも思う。
あれは遠い日の記憶だから。
「カガリ、どんなに可愛い女でもね、余裕がない女やがっついてる女は魅力がないわよ。」
それでも私達は、まだ大人の女になることなんて出来ないのだけど。
息も瞬きも忘れてしまった恋ならば。
短い不在は恋を活気づけるが、長い不在は恋をほろぼす。
thanks! ミラボー